FinanceとHPCの備忘録

Quantitative finance/High Performance Computingに関して学んだことのメモです。Derivative Pricing/HPC/CUDA/OpenCL

論文 - 『A STOCHASTIC VOLATILITY FORWARD LIBOR MODEL WITH A TERM STRUCTURE OF VOLATILITY SMILES』

V.Piterbergによる2003年の論文を読んでみた。

題名の通り、フォワードLIBORボラティリティ確率変動を勘案したモデル(FL-SV model)が紹介されている。特徴はTime DependentなVolatility SmileのSkewパラメータを導入することでSkewのダイナミクスを表現している点と、CalibrationにParameter Averagingを用いることだと思う。

例えば、CallOptionのPriceを求めるのに複雑な数値計算を要する場合はCalibration targetの数だけ繰り返して数値計算をしなければならない。しかし、Parameter Averagingを用いれば1回の計算のみで済むことから、計算コストに優れた手法となっている。

この論文は2003年とやや古いがこのParameter Averaging手法は様々なSV モデルに応用されており今でも読む価値は高いっぽい。以下内容のメモ。

 

dS(t)=\sigma(bS(t)+(1-b)S(0))\sqrt{z(t)}dW(t)

dz(t)=\theta(z_0-z(t))dt+\gamma\sqrt{z(t)}dV(t)

z(0)=z_0

dVdW=0

bはVolatility Skew、\thetaは平均回帰スピードを表現している。ただしS(t)はSwap Rate。Local VolatilityをbS(t)+(1-b)S(0)とすることで、b=0のときは対数正規分布モデル、b=0のときは正規分布モデルとなり、調整することで両者の中間分布を表現することができる。また、X_t=bS(t)+(1-b)S(0)とすればX_tを原資産とするCall Optionの解析解を求めることも可能なため、解析解がやや扱いにくいCEVに比してよく使われている。

Brownian Motionの相関が0なのが微妙だが、下記論文では\rho\not=0でかつVolatility SmileのConvexityパラメータも取り入れて拡張を行っている。

papers.ssrn.com

 

 Forward LIBORを割引債P(t,T)で表すと,

L_n(t)=\displaystyle \frac{P(_t,T_n)-P(t,T_{n+1})}{\tau_{n+1}P(t,T_{n+1})}

 

Swap RateはForward LIBORの集合で表現できるのでForward LIBORのSDEの確率変動を全部集めれば、無裁定条件下でSwap Rateの動きも全部説明ができる。ここらへんは元のLMMと一緒。

 

続いてTime DependentなパラメータをParameter Averagingを使って推定する。それにはまず以下のようなTime Dependentパラメータを持つSDEを新たに定義する。以下の式が与えられた下で、"Effective parameter"(Time Dependentパラメータの平均みたいなイメージ)はどうなるかを調べたいとする。

 

dS(t)=\sigma(t)(\beta(t)S(t)+(1-\beta(t))S(0))\sqrt{z(t)}dW(t)

 

つまり、Time Dependentパラメータが分かっていれば、同じCall Option価格となるようなConstantパラメータも分かるので、逆にConstantパラメータが分かればTImeDependentパラメータも分かる。

Calibration TargetはCall Optionを仮定する。冒頭で述べたように本来Time Dependentパラメータを推定する際は、Time Dependentモデルから得たCall Optionの価格を、Marketから得られたCall Optionの価格に最適化するため、Call Optionのモデル価格を数値計算等を用いて解かなければならない(Time Dependentの場合解析解が得られることはないため)。

しかし、Parameter Averagingを用いる場合、まず第一に

  • Constant Parameterモデルから得たCall Optionの価格をMarketから得られたCall Optionの価格にCalibrationする。その際、モデル価格は解析的に解けるため(Black-ScholesやHestonなど)、計算コストが低くなる
  • 求められたConstant Parameterから、同じCall Option価格になるようなTime Dependent Parameterを推定する。Time Dependent Parameterを持つモデルのCall Option価格を求めることなく、Calibrationを行うことができる。

つまり、CalibrationにConstant Parameterモデルを経由するかしないかの違いであるが、計算コストが格段に改善するためよく使用される。

 

次に気になるのが、Constant ParameterからTime Dependent Parameterを推定する方法。まず、ボラティリティ\sigmaを推定する。

  • ATMCall Option価格のBlack Scholesの公式をg(x)\approx a+b\exp(-cx)と近似することで扱いを楽にする
  • Time Dpendentな場合解析解が存在しないので、Call Option価格をラプラス変換することで特性関数を導く
  • 2つのCall Option価格が等しくなるように式変形を行うと、以下のようなTime DependentなボラティリティとConstantなボラティリティの関係式が導かれるので解析解・数値計算を使用してCalibrationを行う

E exp(-c\int_{0}^{T}\sigma^2z(t)dt) =E exp(-c\overline{\sigma}^2\int_{0}^{T}z(t)dt)

続いてSkewパラメータbを推定する。それには2つのSDEをSmall Noise Expansionしてその差分をとることで、\mathcal{O}(\epsilon^2)かそれ以下に抑えることができる。(Small Noise Expansionは誤解を恐れずに言えば例えば、Volatilityパラメータが\epsilon V(t)みたいに表現できて\epsilonがめちゃくちゃ小さいときは\epsilonについてTaylor ExpansionすることでUndelyingのSDE解を漸近的に求めることができる手法)

 

実装する際にはTime Dependent ParameterはPiecewise Constantなものとして扱う。